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秦きょうこ
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語り部。作家。
「むすびの文庫」と「ふゆる座」を主催しています。

いろいろのお問い合わせは、こちらまで。
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musubino.huyuru@gmail.com
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てのひらがいのちを掬おうとしている。


ほらこんなに白くやはらかく玉椿のやうにそつとひらいて。


そのひと雫もこぼさないやうにゆつくりと運んで。


尊く尊く幾重にもつつみこんで。


―――


手のひらはいのちを掬う。


「凪よ、おいで。」



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「森羅万象にひらかれたあなたのからだは、

これから長い月日をかけて、

際限もなく浄められてゆくのです。」


あなたが生きることのうへに、

美しいもの千万。

すきとほるもの千万。

閃きひかるもの千万。

繋ぎあふもの千万。


死を纏ひ、

灰を纏ひ、

月をまとふ。


かがやかしい陰を、

まあたらしい死を、

底に湛ふ。


あなたにあふるるのは、その力でしやう。

だいじゃうぶです。

生きるよ。


「お早う。」

懐かしいひとの、朝の声を、

今日ひさしぶりに聞くことができました。


朝の病床に、やわらかな秋の光。

声は、かわいらしく皆の耳にとどきました。


もう二どと聞くことは叶わないんじゃないかって、

ずっとそう思っていましたから、

みな目がしらを、熱くしました。



それぞれの眠り。

そこから覚めて、

あらためて出会うの。


「お早う。」


出あえたよろこびが、

あふれて声になった。


小さな病室のなか、

小さな祖母のからだが、

生きるうえで大事なことを一つひとつ、

わたしに教えてくれています。



あのあおい水うみが、

わたくしたちの母胎、

見果てぬ夢です。


ですから畏れます。

それが足もとふかくに押しよせるときには。

わたくしたちを裸身に剝くから。

なにひとつ纏わせてはくれないから。


あのあおい水うみが、

わたくしたちの母胎、

ほんとうの姿です。


けれども矢張おびえます。

それがあんまり露なときには。

言葉のすべてを奪い去るから。

わたくしたちを水底の沫に還すから。


あのあおいい水うみが、

わたくしたちの母胎、

いつか迎える未来です。

深々と横たわる死、

郷愁とあこがれの極点です。








「湿った青を素足で踏みなさい。

息吹を合わせることです。」


2年ほどまえに、

友人からおくられてきた手紙に、

そう記されていたことを思い出した。


「僕は、僕らがこのまま植物になれたらと思う。」


たしか、そんな風にも言っていた。

ミッドナイト木魚がどうの、とも。


とおく離れて、もう2年半になる。

けれどその間、

その時間と距離のあいだを、

何通かのてがみが行ききして。

わたしたちはそれなりに、

いい時間をともにしてるなという気がする。


「今日こうして、伝書鳩がその脚に手紙を結わいつけて。

僕らの空を行き来するのなら。

その軌道はやっぱり∞を型どった道筋に従い運動して脈打ってるような気がする。

それってとっても豊かだなぁ、と思うよ。

僕は、

ポストに投函する刹那、発つ鳥の蹴爪の痛みを手のひらに感じるんだ。

文通を続けよう。

呼吸、と同義のものとして。」


――場所をたがえ、時をたがえて、

ひとつの紙を共にする。

直に会ったって交わせないような言葉の数々が、

そこには記されていて。

ときになにかもっと大きなものからの声のように、

わたしたちに響いてくる。


手紙はふしぎ。

ふしぎです。




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