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秦きょうこ
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非公開
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語り部。作家。
「むすびの文庫」と「ふゆる座」を主催しています。

いろいろのお問い合わせは、こちらまで。
上映会のご希望なども、お気軽にどうぞ。

musubino.huyuru@gmail.com
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○「色」を以て、この世の多様をあらわすのはおもしろい。
色々。いろいろ。


○「いろ」はにほへとちりぬるを。

そう、でもその「色」ってなにか、
漂うもの、移りゆくもの。
この世に定着されたものではなくって。
空間を占めて存在するものでもなくって。

物に、空気に、心に、
憑いて流れるもの。

要するに、虹。
あの流れ。
実体のない、純粋なひかり、その流動。

だから人を惹きつけちゃう。
はかなげで、あぶなげ。
それが魅力。


○色っぽいってなんだろう。
何っぽいってことだろう。

日本の「色」。
これは大事なもんだいだな。


○夕刻、雪景色のなかをバスは走っていた。
わたしは寒い手をこすりながら、
いち日のつかれにゆっくりと沈んでいた。

バスは高いところを走り、
窓のそとには雪空と白い町がひろがっていた。

ぼんやりとながめていると、
ふいに、声がした。
すぐ隣で。
亡くなった親友の声だった。

はっとした。
その瞬間、虹がみえた。

空いっぱいの、巨大な虹。
降りしきる雪空に、
オーロラのように虹がみえた。

しんじられない光景。
まどっていると、
耳元でパキンと音がして、
聴覚がとぎれた。

無音の世界、
薄暗い雪空に、
巨きな虹がゆらめいていた。

こわかった。
なみだが出た。
顔をふして、
親友の名をこころにさけんだ。
すぐそばで声がした。
労わるように、わたしの名をゆっくりと呼んでくれた。

それを聞くと、ふっと力みがとれて、
もいちど無邪気に、空をみたいとおもった。

雪空にあいかわらずの虹。
ぬらぬらと蛇のようにうごいていた。

こんどはうつくしいとおもった。
むねの真んなかがふるえ、
ついで全身ががたがたとふるえた。

鹿神の夜のかお、
ディダラボッチのゆらめく歩みに、
森じゅうのこだまたちがカタカタと鳴るように。

この世の有情として、
ともに振るえた。

やがて虹は分光し、
ちりぢりに落ちていった。
そしてあまねくに宿った。

それで、すんでしまった。
いつものように、夜になった。


○黄昏どきには、
ふしぎがおこる。
神隠しのじかん。
ここから遊離するじかん。


○風邪をひいて実家へかえると、
父も母も風邪だった。


○上映会のうちあわせ。
4月、こんどは糸島です。


○幸田文『浮き雲』の古本届く。
すみれ色の箱に、『浮き雲』の活版文字がすばらしい。
この本に収められている「終焉」は、わたしの宝物。

すでに持っていたのだけれど、母がほしがるから、
ゆずりました。


○無着成恭『山びこ学校』の古本届く。
ちょっと古すぎたか、
不用意にさわると紙がもろけちまいそうだ。

こどもたちの生活綴り方。染みいることば。


○ちかくの神社の節分会にでかけた父母が、
豆菓子と小餅をさげてきてくれる。

古い鬼の面がかっこよかったと興奮している。
わたしも行きたかった。仕事さぼればよかった。

ぶつぶつ云いながら、豆菓子と小餅をいただく。
この上なくおいしい。


○しごと帰りに「ねずみもち」の木をみつける。
いっぱいに生った藍の実をひと粒ちぎり、
お尻んとこをぎゅっとおす。
と、ぴゅんっときもちよく飛んでった。

「いいなぁ、たのしなぁ。」

よそ様のお庭のものだし、
ひと粒かぎりと頂戴したのだし、
もうよそうね、ね、と云ってきかせるが、
こういう時この人はたいてい云うことをきかない。

もうひと粒、もうひと粒。
ぴゅんっ、ぴゅんっ。

きりりと冷えた空気を切って、
ねずみもちが飛んでゆく。

あんまりうれしくなって、
ひとり声たてて笑ってしまった。

幼い日に、山で父がおしえてくれた遊びのひとつ。
まだ忘れないよ。今も遊び。
きっと一生、だいじな遊び。


○お風呂場の窓にうつる影。
小さいのがいち、に、さん。

なにかと思えば、小鳥のお尻だ。
ふりふりしながら、にぎやかに鳴いている。

こういうのって、大すきだ。


○「生活箇条書き」という方法を、
「いづみ」の美代子さんに習った。

生活のかけらを記録する。
そのなかに、生の一閃をみたい。


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○越知保夫著、若松英輔編『小林秀雄―越知保夫全作品』届く。
また本を買つてしまつた。
読めないときほどほしくなるやうだ。

いろいろ一段落ついたら、読むんだ。

と思っていたのに、
「小林秀雄」の文字を見たらたまらなくなって、
ひらいてしまった。

この本は昨年春に出版されたもの。
越知保夫さんの文章は、これが初めてです。

ほんのちょっとならと思って読みはじめたのだけれど、
さいしょの数行で心拍数があがってしまい、
数ペィジで、あ、まずい、と思って閉じた。

「お前は自分を狭苦しく感じている。
お前は脱出を夢見ている。
だが蜃気楼に気を付けるがよい。
脱出するというなら、走るな。逃げるな。
むしろお前に与えられたこの狭小な土地を掘れ。
お前は神と一切をそこに見出すだろう。
神はお前の厚みの中にまどろんでいる。
虚栄は走る。愛は掘る。
たとえお前がお前自身の外に逃げ出しても
お前の牢獄はお前について走るだろう。
その牢獄はお前が走る風のために一層狭まるだろう。
だがもしお前がお前の中に留まって、お前自身を掘り下げるならば、
お前の牢獄は天国へ突き抜けるだろう。
――ギュスターヴ・ティボン」

「われは常に狭小な人生に住めり 
――室生犀星」


の、引用文からはじまる小林秀雄論。
うーわあ、ふるえるなぁ。

「狭小」。
「狭小」。

その「狭小」を通してのみ、
この世に具現化される夢。
ひたすらに掘れ。沈潜せよ。


はやく、いろいろ片づけて、読もう。
越知さんはきっと、
わたしが小林秀雄にベタ惚れしているその理由を、
ことばにしてくれている人だ。
十五年来の盲目の恋に、
ようやく光がさすかもしれない。

それは、わーと叫びたいくらい、うれしいことだ。


○このごろお肉をたべるんだ。
魚さん、鳥さん。

完全なヴィーガンになるかと思いきや、
あれれという感じです、じぶんでも。

・九条ネギと薩摩揚げの煮物
・南瓜のそぼろ煮
・牡蠣と大根とお豆腐のおみそ汁


おとといの夕はん。
きょうの夕はん。


・鯖のみそ煮
・わけぎと小松菜、お豆腐のおみそ汁
・薩摩揚げの炙り、生姜醤油添え

という具合に。
ほんと、急にどうしたんだろうな。


○人のはなしを聴くってむずかしい。
聴きたくて聴いてるのに、
あっというまに、じぶんの文脈に回収してるんだ、いつも。

もちろん、とっても似通ってるから、
びっくりするくらい共有するものがあるから、なんだけれど。

相手のことばとして、
この世に唯一のものとして、
はじめて出会うことばとして、
聴きたいのにな。
そう、希ってるのにな。

なのに、なぜやろか。
あぁー。

温かい鏡のように、なりたい。

○熊谷守一さんの絵と名まえと生き方がすきだ。
数年前に埼玉の美術館でみて、フアンになった。

わたしと100歳ちがい。
わたしの生まれる3年前にこの世を去ってる。
そう、でもきっとまだどっかに生きてるよ、
仙人だもん。

と、
それ以来、勝手にこの世のあちこちに、
彼の気配をかんじとってきた。

クロアゲハがゆらりと現れたり、
桜文鳥が口をぱくりとあけたり、
蟻んこが光るように働いてたり、
あじさいが虹の玉になってたり、
山椿がぽたぽたと落花したり、

なにか、そういう瞬間。

「あ、いまクマガイさん居た。」

っておもう。
そう、おもってきた。


○滑稽なくらい素直に生きる、小さきものたち。
彼らの息づかい、心臓の鼓動さえ、
聴こえてきそうな元気な絵。

きょう、北九州市立美術館の分館へいって、
ひさしぶりに彼の絵のまえに立ったら、
いちいち笑いがこみあげてきて困った。

この人、よほどだな。
よほど好きなんだ。
いのちが。生きているということが。

クマガイさんの描く生きものたちは、
元気だ。
おどってる。
いのちのままに懸命。
でも、みんな不器用。
それがいい。
それによって、愛が倍増する。

世界との摩擦音がきこえる。
全身で世界に引っかかってる。
ごつごつと、ぼってりと。
そしてこすれる度、あざやかに発色する。

いいなぁ、あかるい音楽だ。
クマガイさんの絵をずらりずらりと広げてったら、
祝祭音がこころにみちた。

そう、でもそうだね。
それをささえてるのは、
つよい死だろう。
愛し子たちの、死。
また、死。

そう、でもだからだ。
生。また、生。
つよい生、ふとい生。
一瞬の、
けれどもわっと鮮烈な、
むねにぐっと痛いような。

世界と一対一で描かれた絵。
かつてすべての絵の前に、
クマガイさんがいたんだね。
いまそこに、私は立ってる。
私もまた一対一で。
世界と、クマガイさんと、むきあってる。
ぱちぱちと、火花が散って、
きれいだった。


○いのちには、
いのちをもって、
応ずること。


○小林秀雄の講演を、
夜通しきいてる。
おかげで寝不足だ。

深夜だからか、
感極まってなみだすること数回。

高校生のとき『平家物語』で惚れて以来、
長い片思いをつづけている。
いっときはストーカーだったな。

あ、この話はまたの機会に。


○回転焼きをたべる。
黒あん、白あん、芋あん。
各1コ、¥70。
実家の近所の老舗まんじゅう屋にて。

こんどは鯛焼きにしよう。


○わけあって、facebookを始める。
けれど「始める」って、なにすることなのか、
全然わかっていない。
とりあえず登録。今のところそれだけ。


○ひさしぶりに本をいくつか注文。
・若松英輔『神秘の夜の旅』
・幸田文『ちぎれ雲』
・宮本常一『宮本常一著作集1』
・南方熊楠『南方熊楠コレクション』1-5
など。


○ゆうべのお月さんとお星さんは、
きれいやったわぁ。
ごちゃごちゃしたこの町の空には、
もったいないようやった。


○「月と裸婦」。
クマガイさんの重要なモチーフと解説されていた。
わかる、わかる。
わたしも、月と女をよく描いてしまう。
なみだこぼして舞う女。
手が、ちぎれるくらい、月にのばしてんの。


○きのう薄暗い床で、
15年くらい前に一じきを共にすごした猫のことをおもいだしていた。

あいつは夜になるとやってきてたな。
ベランダの窓のとこにぴたりとはりついて。
口を天にむけて、みょうな唄ごえあげて、
「入れてーおくれー。
おくれーよ、おくれー。よ。」
という具合に。

年のほどはわかんなかったけど、
おじいさんぽかった、よぼよぼとして、
機嫌わるくて。さびしそうで。

毛並みもきたなかった。
ばさばさしてて、なでると怒った。
でも立ち去ることはなかった。

魚の骨をすごい顔して食べてた。
いかにも旨そうだった。
その隙になでたら、
やっぱり怒った。

こんなに機嫌のわるい生き物はじめてだった。
こんなに怒られるんもはじめてだった。

でも、嫌いなんやないらしい、わたしの事。
毎日くるもん、おなかすいてない時も。

青みがかった灰色の目。ロシヤの目。
朝とよる。
ひなたとひかげ。
ふとったり、ほそったり、
ほそったり、ふとったり。
三日月、満月。
満月、三日月。
ああ、たのしい。
おじいさんと居ると、
たいくつなんかないな。
一瞬だって、ない。
たのしい。

わたしが声たててわらうと、
おじいさん、嫌そうに見た。

台風がきた。
大型の台風だった。

その日わたしは外泊をしてて、
家を空けてた。
おじいさんのご飯は置いといたけど、
ともかく、おじいさんを嵐の中に、
あのひどい雨風の中に、
そのまっ黒な闇の中に、
ひとりぼっちにしちゃったんだ。

台風一過。
よく朝うそみたいに空ははれて、
風は凪いで、おだやか、おだやか。

おじいさん大丈夫だったか、
と急いで帰ったへやのベランダに、
はたしておじいさんは、座っていた。

わたしを見るなりびっくりするような大声あげた。
それどころか、
ギャァァとわめきながら、
こっちへ突貫してきたのだ。
わたしはまともに飛びかかられて、頭つきをうけて、
うしろにどすんと尻もちついた。

どうしたの、おじいさん?
ごめんごめん、ほってってごめん。
こわかったよなぁ。ごめんな。
けがないか?

おじいさんは私のお腹にはいりこんで、
なおもごつんごつんと頭をぶっつけてくる。
ギャアギャアと泣きながら、
涙さえこぼしそうな目で、
うらみがましさいっぱいの目で。

おじいさんはそうしてしばらく暴れて、
さすがに疲れちゃったのか、
そのまま私のお腹でねむってしまった。
こんなことしたの、
生まれて初めてだったのかもしれない。

その後おじいさんはショックからか単なる夏ばてからか、
ともかく食欲を落としちゃって、
がりがりのやせっぽちになってしまった。
私もしんぱいして色々気をつかってみたけど、
なぁに、野良のつよさだね、
秋の近づくころにはまた食欲をとりもどして。
魚の骨をすごい顔して食べてたよ。

おじいさんが亡くなってずいぶん経ったな。
大すきだった。はじめて深くかかわる猫だった。

薄暗いよるの床、耳の底に、
あの懐かしい妙な唄ごえがきこえてきて、
私をしずかになぐさめてくれた。



○蛙にさわりたい、いや、さわられたい。
あのぴと、ぴととした指さき、てのひらで、
私の手を歩いてはくれまいか。
それが蛙とわたしなりの握手ということで。
どうかな、だめかな。
あ、あいては雨蛙ね、ちなみに断っとくと。


ひとりきりの暗闇は、
ばかみたいな夢想であっというまにいっぱいになる。

はやくおうちに、帰りたい。


○看護婦さんが仏にみえる。
天使じゃなくて、あれは仏だ。
仏さんのぷっくり白い手と慈光と。
あぁ、ありがたやー。









○めがあうこと。みつめあうこと。
のふしぎを、考えつづけた時期があった。
卒業論文の、さいごのテーマだった。

眼医者さんがめをのぞきこむのと、ちがう。
めは物じゃなくて、その人じしん、私じしん。

私はわたしの全てをかけて、その人のほうを向いている。
あいてもまた、そう。じぃっと、ひたすらに。
めをあわせて、むきあっている。

からだってすごいのだ。
なにげないようでいて、
こんなにも断ち切られたわたしたちを、
つないで、つないで、
いつも、
そんなふうに、おのずから、動いてくれる。

私とそとをむすぼうとして、
私をそとにひらこうとして、
いつも、いつも、そういうふうに。

すてられた切れっぱじみたいなわたしを。
業火のためにくず炭みたよになったわたしを。
もうにどと光熱をはっすることのないわたしを。

それでも、
それでも、
つなぎとめてくれる。

からだがある、
もうそれだけで。
それだけで、じゅうぶん。
わたしは、この世に、
だきとられている。
いやおうなしに。

どんなに閉じても、
となりに木が居て。
ぶちんと切れて凶暴と化しても、
そばでとかげがじっとみていて。

風がなでたり、
雨が打ったり、はだを伝い、流れてったり。

鳥の瞳に映っていたり、
葉っぱが胸に落ちてきたり。

背中で幹がじゃりじゃりいったり、
めめずが前を横切ってったり。

細かい理解の有無なんて、
このさい、どうでもいいじゃないって。
今を、ともに、生きている、
この世はそれ以上でもそれ以下でもないんだって。

くりかえし、くりかえし、
せかいに教え諭されてきた。

そのことが、
当時ほんとにすくいだった。

発達心理学の浜田寿美男さんが、
そのことを、
「身体の共同性」とか
「身体の相補性」とか
のことばでとらえてくださっていて、
わたしはそれにすがりつくようにして生きていた。

からだはすごいってことと、
からだはすごいってことをみつめる眼ざしは人をすくうってこととを、
そのとき学んだ。



○めがあうこと。みつめあうこと。
でも、
それがにらめっこみたいになるときは、さびしい。

応じあうからだ。
それだけでじゅうぶんって、
思ってるけれど。

そうも言ってられないことも多々ある。
生きてると。

みつめあってるのに、
それが、たがいの緊迫のため、
防御のため、距離をたもつためだったりすることもあって。

そんなときは、
どんだけみつめあってたって、
かなしい。さびしい。
たがいに我を張ってるだけで、
すなおなものがふたりをつらぬいて流れることなんてない。

もちろん、
さがしているのだけど。
かくされた抜け道はないか。
こんがらがった知恵の輪が、
どうかしたらするりととけないか。

それでも刻一刻と、
たがいのからだの輪郭がくっきりとしてきて、
あぁ、なんて別個なんだろうと落胆してくる。
そしてその落胆さえ、内にとじこめる。
ぶつけるだけのすなおさも、もうのこっていなくて。
底の底まで、まがりきっている。

そういうのは、ほんとうに、つかれることだ。
生きるじかんの中で、できるだけよした方がいいこと。

いつも反省する。
でも、起こってしまうな、まだまだだな。


○めがあうこと。みつめあうこと。
だれかと、ふとさし向かいになること。
あいかわらず私は、
それをとってもこわいとおもっている。
やっかいともおもっている。

卒業論文のときと、それはひとつもかわらない。

でも、わたしをこの世にひきとどめてくれるのは、
まちがいなくそのこと、からだの、応じあう力。

ほんとにドキドキする、この世に生きてるってことは。
だれかに私を、見、とめられるということは。
私もまた、だれかを見、とめるということは。

出会うことのなかには、
ふかい悲しみも、断絶も、排除も、否定も、
怒りも、拒絶も、侵害も、暴力も、あるでしょう。

それでも、やめない、
やめることができない。
このからだのある以上、
わたしたちは。
それらすべてを引き受けなけりゃいけない。
きれい事なんかいらない。
正論だけならうそだ。

そのままに。
私たちのままに。

ただ、
この世と目をあわせて、
生きていたい。



○なんだか、今、すこし暗いのか。
暗いような気もする、そういう時もあるよ。

いま、おどろいたことに入院をしていて、
いろいろの検査にたびたびしょっぴかれている。

あと一日のしんぼうだ。

結果がこわいんじゃなくて、
結果にこころが歪むんじゃないかって、
それがとにかく、こわい。

たとえわずかな歪みでも、
わたしはじぶんに許したくない。

このひとには、貴くあってほしいのだ。
さいごまですっくりと、
天空へ吹きぬけるこころで。

そのことだけは、このひとに、
誓っててあげたい。

と、ひとり熱くなって、
もくもくとお昼ごはんをたべていたら、
となりに居たおじいちゃんが、
歯のすっかり抜けた口でファファファとわらったから、
その力みがすべてゆるんじまった。よ。

ファファファ。

やわらかくこもる、
いい声だった。

こころに遺るなぁ。




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