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秦きょうこ
性別:
非公開
自己紹介:
語り部。作家。
「むすびの文庫」と「ふゆる座」を主催しています。
いろいろのお問い合わせは、こちらまで。
上映会のご希望なども、お気軽にどうぞ。
musubino.huyuru@gmail.com
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祖母が亡くなったのは去年の暮れのこと、
まだいく日も過ぎていないからだろうか、
その出来事は言葉にならないまま、
沈んだり突き上げたりをくり返している。
祖母は居なくなり、ぽっかりと穴を遺した。
不在の穴。「 亡い」という穴。
それがまるで立ちふさがるようにして、
私の前に大きな口をあけている。
私はその前で、
ただ立ちすくんでいるのだと思う。
あるいはすがっているのかな。
金縛りにあったみたいに、
その前から動くことができないでいる。
穴は無であり、
無であることによって、
窓になる。
立ちすくむ私に、
窓は時々、風景を見せる。
見えるのはいつも一面の花野、
祖母が生前に丹精していた花がとりどりに咲いて、
風に揺れている。
私はその中に祖母の姿をさがす。
でも、見つからない。
いや、 見つからないのではない。
それが祖母の姿なのだ。
その一面の花野自体が。
…
…
十年も前のことになるだろうか、
祖母とふたりで野分に散らされた実家の庭を散歩していたとき、
一群の蛍袋の前で、祖母がぽつりと言ったことがある。
「花がなかったら、うちの人生には何も無い。」
普段、自分のことを語ることなどない人だったから、
私はふいをつかれて返答できなかった。
人知れずたくさんの苦労を負って、
長い道のりを黙々と歩いてきた一人の女性、
孤独の内に花を生かし花に生かされて来た人が、
そこに居た。
幼いころから、
穏やかな佇まいの向こうに、薄々と感じていたもの。
花が無ければ、無いに等しい。
私の命は花なのだと、
祖母は私に、うち明けてくれたのだ。
窓のむこうの、一面の花野。
人は花になり、風景になって、人を支えることもある。
…
…
祖母は生前の名まえを「初枝」といったが、
花を命としたことを見とめられて、
「初花妙詠大姉」
という戒名を授かった。
初枝初花、いずれも祖母にふさわしい。
妙詠というのは、
花や家族をごく素直な言葉で詠んだ手製の歌集が、
遺品の中に見つかったから。
その歌集の存在を家族の誰も知らなかった。
祖母を表すに、 この上のない名まえを戴いたものだと思う。
祖母は居なくなり、ぽっかりと穴を遺した。
不在の穴。「
それがまるで立ちふさがるようにして、
私はその前で、
ただ立ちすくんでいるのだと思う。
金縛りにあったみたいに、
穴は無であり、
無であることによって、
窓になる。
窓は時々、風景を見せる。
見えるのはいつも一面の花野、
私はその中に祖母の姿をさがす。
でも、見つからない。
いや、
それが祖母の姿なのだ。
…
…
十年も前のことになるだろうか、
「花がなかったら、うちの人生には何も無い。」
普段、自分のことを語ることなどない人だったから、
人知れずたくさんの苦労を負って、
そこに居た。
穏やかな佇まいの向こうに、薄々と感じていたもの。
花が無ければ、無いに等しい。
私の命は花なのだと、
窓のむこうの、一面の花野。
人は花になり、風景になって、人を支えることもある。
…
…
祖母は生前の名まえを「初枝」といったが、
「初花妙詠大姉」
初枝初花、いずれも祖母にふさわしい。
妙詠というのは、
花や家族をごく素直な言葉で詠んだ手製の歌集が、
祖母を表すに、
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