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語り部。作家。
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祖母が亡くなったのは去年の暮れのこと、
まだいく日も過ぎていないからだろうか、
その出来事は言葉にならないまま、
沈んだり突き上げたりをくり返している。

祖母は居なくなり、ぽっかりと穴を遺した。
不在の穴。「亡い」という穴。
それがまるで立ちふさがるようにして、
私の前に大きな口をあけている。

私はその前で、
ただ立ちすくんでいるのだと思う。
あるいはすがっているのかな。
金縛りにあったみたいに、
その前から動くことができないでいる。

穴は無であり、
無であることによって、
窓になる。

立ちすくむ私に、
窓は時々、風景を見せる。

見えるのはいつも一面の花野、
祖母が生前に丹精していた花がとりどりに咲いて、
風に揺れている。

私はその中に祖母の姿をさがす。
でも、見つからない。
いや、見つからないのではない。

それが祖母の姿なのだ。
その一面の花野自体が。




十年も前のことになるだろうか、
祖母とふたりで野分に散らされた実家の庭を散歩していたとき、
一群の蛍袋の前で、祖母がぽつりと言ったことがある。

「花がなかったら、うちの人生には何も無い。」

普段、自分のことを語ることなどない人だったから、
私はふいをつかれて返答できなかった。

人知れずたくさんの苦労を負って、
長い道のりを黙々と歩いてきた一人の女性、
孤独の内に花を生かし花に生かされて来た人が、
そこに居た。

幼いころから、
穏やかな佇まいの向こうに、薄々と感じていたもの。

花が無ければ、無いに等しい。
私の命は花なのだと、
祖母は私に、うち明けてくれたのだ。

窓のむこうの、一面の花野。
人は花になり、風景になって、人を支えることもある。




祖母は生前の名まえを「初枝」といったが、
花を命としたことを見とめられて、

「初花妙詠大姉」

という戒名を授かった。
初枝初花、いずれも祖母にふさわしい。

妙詠というのは、
花や家族をごく素直な言葉で詠んだ手製の歌集が、
遺品の中に見つかったから。

その歌集の存在を家族の誰も知らなかった。
祖母を表すに、この上のない名まえを戴いたものだと思う。






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○ことばを発することにつかれたとき、
もう一音だって声を上げることができないとき、
それでも樹々はざわめいてくれるし、
小鳥はさえずってくれる。

わたしの胸の堂におこる震えは、
そんな風にして世界の者に託されて、放たれている。
どんなに弱り果てていても、
それだからわたしの表現は止まない。

世界にすっかり内包されているわたしの命は、
みなの命の律動さえ表れていれば、
もう二度とこの口を動かすことができなくても、
満足なのである。


○いまは虫。あの高い鈴の音。
わたしが秋の夜に出したいことばは、
彼らが十二分に奏でてくれている。


○どんなに小さな羽虫でも、
つぶすと心が冷える。
はっきりと冷えて固くなる。

気がつきたくないけれど、
同時に目をそらしたくない。
目をそらしたくないけれど、
同時に気がつきたくない。

矛盾してる。矛盾してるんだ。
なんてことだろう。
わたしずっとそうして来たんだよ。


○じぶんの体が無機質に感じられて、
やりきれない気持ちになることがある。

情の通わない無意味な肉塊。
きみがわるくて仕方がないし、
つらさが突き上げてきてこわばってしまう。

でもそれも明るい兆し。
それを「つらさ」として感じられるようになったもの。
離人感とは長いつきあいになるけれど、
この一年ほどは「つらさ」が突破してくる。
「つらさ」が全力で手をのばして、
離れてしまった私をつかまえにくる。

だからつかまっていいんだよね。
「つらさ」に貫かれて倒れちゃっていい。

それで涙なんて出たらしめたものだ。


○このごろ夜ごとに
シェーンベルグの「浄夜」を聴いている。

大きな音で聴きながら、
私も夜になるんだ。「浄夜」になる。

意識がとけて、夢がつつむ。


○ことばを聞きたい。ことばが聞きたい。
そう、切に求め、切に希っている。

人の群れにいると一層ことばが遠くなって、
のどとむねが不安で熱くなってしまうから、
こわくて近づけない。

分からない言葉がにぎやかな音を立てて流れ込んでくる。
するとわたしは忽ちに押し流されてしまって、
じぶんがどこに居るのかさえ分からなくなってしまう。

身体の輪郭はそこにあるのに、
皮一枚の内がわは恐ろしい濁流で、
わたしの意識はすれすれなのだ。

それをじっと、
泪目で、
こらえている。

ことばが吹いて、
世界の名をわたしに告げる瞬間こそ掬いの時。

わたしはようやく世界とむすばれ、
そこに止まることができる。

その止まった点が「私」であり、
わたしはようやくほぅと落ち着いて、
うれし泪とともに「私」を自覚する。

だから私はいつもことばを。
切に求め、切に希っている。


○声音はきこえるのに、意味をむすばない。

それは耳元で大きく響いて、
鼓膜を痛いくらいに叩いてくるのに。

意味がとれない。伝わらない。分からない。

知っている言葉なのに。
まちがいなくそれは、私の母語なのに。

意味がとれない。伝わらない。分からない。

知っているのに、分からない。
文字には起こせる。
一つ一つの辞書的な解説ならできる。
それなのに、分からない。
一体どういうことなのか。

私とは無関係に、
しかし圧倒的な量として流れてくる言葉。

意味をとりたい。伝ってほしい。分かりたい。
○口はぷわぷわと際限なく、
あぶくみたいな言葉をもらしているのに、
心の方は石のように黙として、
遠くに遠くに沈んでいる日がある。

ばらばらに散っている日。
言葉を紡ぐ軸が不在の日。

たくさんお話したいことはあるのに、
誰もそれを、語り出そうとしない日。

それなのに口はうろうろとして、
空ろな泡をもらしつづけている。

という、そんな日がある。

世界はぴかぴか満ちているのに、
みな人の言葉も充ちているのに、
ひとり空蝉の様。殻だけで居る。

仕方がないなぁ。
けれどもご免なさい。
そういう日は、
みなさんほんとう、ご免なさい。


○ことばは霧の中にある。
いつもいつも真っ白な、
霧の中に閉ざされている。

だから見えないの。
ほとんどの時は見えない。

私は私のことばと、
いつも会えないまま過ごしている。


○いつごろからそうなのか。
その「いつ」に関しては、
はっきりとおぼえがある。

その「いつ」の直後には、
今ことばが見えないのは、
一時的な反応の故と聞かされていた。

自らを護るために、
一時的に霧をかけて、
意識の目を遮断しているのだ。と。

けれども「いつ」からずいぶん経った。
ずいぶんずいぶん、歩いてきたよ。

それでも霧は、まだかかっている。
真っ白な霧が、
頭にぎゅうぎゅうと詰まっている。

どうしたらこの霧は晴れるんだろう。
ずっとずっともがいている。

○お会いするより早く、
その方はここを読んで下さっていた。

それは私のあこがれの方で、
いつかいつかお会いしたいと願っていて、
先日ようやく、それが叶ったのだけれど。

お会いするより早く、
その方はここを見つけて下さっていた。

俄には信じられなくて、
真剣にほっぺたをつねったのだけれど。

痛かった。ちゃんと。

ほぅと長い安堵の息をついた。
つくづくと有難いとおもった。

同時にぎゃあと顔から火も出ていて、
まだ顔をあげられずにいるのだけれど。

やっぱりうれしい。
すなおに単純に、
これはうれしいことだなぁ。

だって、その方とは、
若松英輔さんなのである。


○そのことがあって、
この頃の「書くこと」を反省した。

節操無しにぽいぽいと、
書いているのが恥ずかしくなった。

それで、赤面しながらここに戻ってきた。
でもまだ「書くこと」は戻らない。

「書くこと」を回復したいと願うなら、
鎮まること沈むことを大事にしなければならない。

ある次元にはさようならをしよう。
そしてある次元に居住地をかえよう。


○「書くこと」の回復のためには、
「読むこと」を大事にしなければならない。

わたしはまだそれができていない。
特に研究の領域のそれについては。

たった一人の言葉でいいから。
わたしは「読むこと」を叶えなければならない。

活字のむこうを「読むこと」。
活字のむこうを思い遣ること。

上ずるじぶんを引きずり下ろして。
それを叶えなければならない。


○目を閉じて読もう。目を閉じて書こう。


○活字を声にしよう。声を活字にしよう。






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